人生は常に選択の連続… かみ締めるほどに味のある作品 映画「泣く子はいねぇが」(夕刊フジ)

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 「マージャンってさ、ひとつ拾えばひとつ捨てなきゃなんねぇ。全部拾えればいいんだけどな」 【写真】「泣く子はいねぇが」の舞台あいさつに出席した佐藤快磨監督ら  密漁したサザエを買い取る民宿の経営者がつぶやく。公開中の映画『泣く子はいねぇが』のせりふだ。脚本は、本作が劇場デビュー作の佐藤快磨監督(31)。  マージャンは手持ちの13牌に新しく牌をつもっては不要な牌を切り、手を仕上げていく。多牌(ターハイ)や少牌(ショーハイ)では上がれない。  冒頭のせりふは、マージャンのルールのようだが実に深い箴言(しんげん)である。人生は常に選択の連続。うまく手放せるか否かに直面する。諦め方がうまいか、いつまでも逡巡(しゅんじゅん)するか。それが生き方に反映される。断捨離が不要なほど片付けができる人は、欲が少ない。  俳優の仲野太賀(27)と女優の吉岡里帆(27)が夫婦を演じる。舞台は秋田県男鹿市。ナマハゲでの出来事が物語の引き金になる。  情けない夫に妻は愛想を尽かしていた。子供が生まれた直後でも不満を夫にぶつけていることが深刻さをにおわせる。  ナマハゲに出かけるという夫。「飲まないでね」とくぎを刺す妻。だが夫は酒を飲み、とんでもないことをやらかしてしまう。酒癖というのはやっかいだ。  ナマハゲの存続危機になる大事件となり、夫は地元にいられず、東京に逃げる。離婚をしたが養育費も慰謝料も支払っていないことも後々のせりふで浮かび上がる。  頭のてっぺんからつま先まで一気通貫のダメ人間。そんな人間にかぎって未練だけは一人前で、前妻が働く歓楽街に足を運び、思いを吐き出す。もう1度チャンスを! と懇願する。しかし、前妻は人生をリスタートし、先々を見据えて暮らしている。不要な牌は迷いなく捨てている。  サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀賞撮影賞を受賞した。だからというわけではないが、映像がうまい。後ろ姿、横顔、目の使い方をつぶさにとらえている。  心に残ったのは、0歳で別れた娘が2、3歳になり、保育園のお遊戯会に出演するシーン。会場に入り込んだダメ男は、会いたくて仕方ない娘を探すが目が泳ぐ泳ぐ…。そして涙目…。  映画『万引き家族』の是枝裕和監督(58)が企画として参加し、若き才能を支えた。派手さはないが、かみ締めるほどに味のある映画だ。

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(2020/11/22)