【絵本を味わう 子供とともに】「となりのたぬき」 相手を通じて自分を変える(産経新聞)

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 「ぼくは となりの たぬきが きらいだ。だいっきらい!」  平成8年に鈴木出版から刊行された「となりのたぬき」(せなけいこ作・絵)は、大人がドキッとしてしまうくらい、感情をストレートに表すうさぎの言葉で始まります。  「へん、いじわる うさぎ!」「ふん、いばりや たぬき!」と、うさぎとたぬきはいつもケンカばかり。「あの たぬき、ぽかぽかになぐって…ぺちゃんこにして…とおくへぶっとばしたい!」うさぎの言葉を聞いたお月さまは、1カ月の間、たぬきに親切にしてやることができれば、自分がたぬきをこらしめてやるとうさぎと約束をします。  次の朝から、うさぎはたぬきの家へ行き掃除したり洗濯したり…。たぬきがいばって命令しても、1カ月だけだからと我慢して何でもしてやりました。するとどうでしょう。たぬきもお芋を焼いてうさぎが来るのを待ったり、おみやげを買ってきたり…。「あの うさぎ ほんとは いいやつなんだ。あいつの ためなら ぼくは なんでもするよ」と仲間に話します。  それを聞いたうさぎは、お月さまにとんでもないことを頼んでしまったと慌てふためきます。そして、「たぬきを やっつけてあげよう」と言うお月さまに、泣いて「やめて」と頼むのです。お話はここで終わりますが、泣いているうさぎにたぬきが近づき、裏表紙にはお月さまの光に映し出された2匹の姿が描かれています。  大人はとかく「嫌いなんて言っちゃダメでしょ。仲良くしなさい」と言いがちですが、お月さまは違いました。うさぎがたぬきへの関わりを変えることでたぬきがそれに気づき、たぬき自身も変わっていくことに信頼を寄せていたのです。うさぎとたぬきは自分の感情を素直に表し、気持ちをぶつけ合う関係だったからこそ、互いの変化を感じ取り、受けいれ、相手を通して自分を変えていきました。  子供の世界と心の動きを丁寧に見つめ描いてきた、せなさんならではの味わい深い一冊です。 (国立音楽大教授・ 同付属幼稚園長 林浩子

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(2020/11/15)