途中退場者続出の話題作『異端の鳥』が描く、戦争で子供が体験する地獄の旅路(HARBOR BUSINESS Online)
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ホロコーストから逃れ疎開し、老婆と共に暮らしていた少年は、黒い瞳と髪、オリーブ色の肌を持つため周りから異質な存在として疎まれていた。やがて老婆は病死し、そのうえ火事で家を失ったため、少年は一人で旅に出ることを余儀なくされる。彼は父と母がいつか迎えに来てくれることを夢見ていたが、行く先々で容赦のない迫害や虐待を受け続け、次第に純粋な心を失ってしまう。
物語構造は「異質な存在とされる少年が様々な土地を渡り歩く」と非常にシンプルだ。だが、その道程は暴力と死と性に満ち満ちており、この世の地獄と呼ぶにふさわしい様相を呈している。
少年が出会うのは、小動物を奪い取って殺そうとする子どもたち、彼を悪魔だと信じて袋叩きにする村人たち、妻と作男との不倫を疑う夫など、おぞましい悪意を持つ者がほとんど。中には、年端もいかない少年に性的な欲望を抱く大人さえもいる。一方で、処刑されそうになった彼の命を救う兵士、その身を案じる心優しい司祭も登場する。
この『異端の鳥』を観れば、戦時中の混沌とした時代には、劇中の少年と同じように、子どもが暴力や性的虐待の犠牲になっていたのだろう(実際にそうだ)と、誰もが想像ができるだろう。事実、ヴァーツラフ・マルホウル監督は、主人公の少年について「戦争を生き抜き、荒廃したヨーロッパを彷徨い、両親を失った数十万人の子どもたちの代表であり、ある種の象徴だ。そして、それは今の世界中で軍事紛争が進行している場所、どこでも同じである」とも解説している。
ここにこそ、本作最大の意義がある。戦争の悲劇性を大局的に見ているだけでは気づけない、その時に起こりうる子どもへの悪意や加虐性の表出、異質と判断された個人への差別や迫害の恐ろしさを、映画という受け手の感情をダイレクトに刺激する手法で実感できるのだから。
さらにマルホウル監督は、本作に様々なメッセージがあることを前提として、最も大切なことに「二度とこういうことを起こすな」ということを挙げている。本作で描かれる地獄は過去の戦時中に確かに存在し、今もその状況が続いている場所もある。
だが、劇中で少年に救いの手を差し伸べた者がいたように、この映画を観る観客もまた過酷な状況に置かれた少年を、心から救いたいと願えるのではないか。残虐性を取り沙汰するだけではもったいない、極めて誠実なテーマ性が、本作にはある