傑作映画『ある画家の数奇な運命』で描かれる、ナチスでも奪えなかったアートの力とは(HARBOR BUSINESS Online)

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 ナチス政権下のドイツ。少年クルトは叔母の影響から芸術に親しむ日々を送っていた。だが、叔母は精神のバランスを崩し、強制入院の後に安楽死政策によって命を奪われてしまう。終戦後、大人になったクルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会った美しい女性のエリーと恋におちる。そのエリーの父親カールこそが、元ナチスの高官であり叔母を死へと追いやった張本人なのだが、誰もその残酷な運命に気づかないでいた。  物語の背景に戦争と世界情勢の大きな変動があり、そして1人の男の半生を子ども時代から追うという物語は『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1995)をほうふつとさせる。叔母がナチスの安楽死政策により殺された、という物語の始まりはとても重いものだが、それから先は悩み多き青年の生き様を、ユーモアも込めながら物語っていく。  中には「恋人とベッドを共にしていると両親が帰ってきたため、全裸のまま窓から逃げようとする」という、かなりコメディに寄せたシーンさえもある。恋を成就させるまでのラブロマンスとしても、挫折を経験しながら芸術家という夢を追い続けるサクセスストーリーとしても楽しめるだろう。  その万人が楽しめる物語の中には、毒の強いサスペンスもある。それが、意中の女性の父親が、叔母の仇(かたき)であり、それに誰も気づいていないことだ。元ナチス高官であったこの父親は威圧的かつ独善的な性格をしており、娘に近寄ろうとする主人公に不信感を募らせていく。  「登場人物が知らないことを観客が知っている」というのは、映画において最もハラハラする“仕掛け”だ。おかげで、観客は「父親は果たして結婚を許すのか?」に加えて「いつ叔母の仇であることに気づくのか?」という緊張感を持ちながら、彼らの人生を観ていくことになる。  このように、本作にはドラマ、コメディ、ラブロマンス、サクセスストーリー、サスペンスと、たくさんのジャンルの要素が詰め込められている。そのため、3時間9分という上映時間があっという間に感じるほど、とにかく“面白い”のだ。  画や美術もこれ以上なく洗練されており、『メッセージ』(2016)や『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018)などを手がけてきたマックス・リヒターの壮麗な音楽も耳に残る。エンターテインメント性と芸術性を併せ持つ映画としても、1つの理想形だろう。お堅い歴史もの

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(2020/10/04)