巨匠マルコ・ベロッキオが描く、シチリアマフィア史上最大のミステリー──映画『シチリアーノ 裏切りの美学』(GQ JAPAN)

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『シチリアーノ 裏切りの美学』は、『夜よ、こんにちは』(2003)『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(2009)など、イタリア史上の重大事件を取り上げて強靭な傑作を生みだしてきた1939年生まれの巨匠、マルコ・ベロッキオの新作だ。彼の比類なき鮮烈な視覚的センスと深い洞察力が、この大作でもまた冴えわたる。 語られるのは、マフィアたちから「裏切者」とののしられた、トンマーゾ・ブシェッタ(1921-2000)の後半生である。ブシェッタはマフィアの大物でありながら、1980年代、組織の一斉摘発につながる情報を警察に提供し、その後さらに、マフィアと癒着していた複数の権力者(そこには元首相のジュリオ・アンドレオッティも含まれる)をも告発した人物だ。多数の死者を出したマフィアの大抗争が、ブシェッタの捜査協力によって終結したわけだが、組織へのこの「裏切り行為」に彼がなぜ及んだのかは、今日まで必ずしも明らかではないという。本作は、丹念な取材に基づいて事実を描写しつつ、ブシェッタの信念と葛藤に迫っていく。 この映画に描かれるブシェッタは、みずからを「名誉ある男」だと言う。「名誉ある男」というのは単純にマフィアの構成員を指す言葉だが、ここではもちろんそれ以上の、文字どおりの意味もこめられている。麻薬ビジネスにのめりこみ、組織と無関係な子どもたちまで容赦なく虐殺するようになった現在のマフィアの姿を、古い時代のマフィアの掟に忠誠を誓った彼は認めることができない。だから捜査協力は彼にとって裏切りではなく、コーザ・ノストラへの忠誠を証す行為だった。マフィア撲滅に執念を燃やし、同じように鋼鉄の信念を貫くファルコーネ判事と彼は、互いに尊敬の念で結ばれるようになる。 ブシェッタを演じるピエルフランチェスコ・ファヴィーノが、知性と堂々たるカリスマ性をまとっていて素晴らしい。この男にはかなわないと誰もが思わざるをえない圧倒的な貫録で、いわゆる「男も惚れる」色気とダンディズムがある(どうでもいい話だが、サングラスをかけると『西部警察』の石原裕次郎に似ている)。検挙されたマフィア幹部たちが裁かれる「大裁判」の各シーンは、画面構成も含めて本作の見どころのひとつだが、なかでもとりわけ、かつて盟友だったジュゼッペ“ピッポ”カロとブシェッタが法廷で対決するくだりは、ふたりの複雑な思いと駆け引き、ブシェ

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(2020/08/28)