【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第23回 表と裏と、(MOVIE WALKER PRESS)

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「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第23回は、文章から見えてくる、その人の知らない面について。 【写真を見る】いざ、湘南の海へ ■第23回 表と裏と、 昔から人の書いた文章を読むのが苦手だ。 語弊のないよう補足するが、もちろん普通に本を読むことも自分で文字を書くことも好きだ。ただ、よく知っている人の書いた文章を読むのが苦手なのだ。例えば普段ガサツな母の繊細な言葉とか、淡白な友達の熱い愛の言葉とか、おぼこいと思っていた後輩の横文字言葉とか、そういった相手の自分の知らない面が言語化されて見えてくることが、何だか見てはいけないものを見てしまっているようで怖いという感覚になる。 彼女と出会ったのは数年前、知人の大学の卒業制作の映画撮影を手伝っていた時だ。お互いどこという部署もなく色々と雑用を任されていたわけだが、嫌な顔ひとつせず誰とでも爽やかに、笑顔でコミュケーションを取る彼女を私は素直に尊敬していた。2人で行動することも多く、仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。 撮影最終日、その日は湘南の海に朝日を撮りに行くスケジュールだった。宿泊する予算などなく、とにかく早朝6時に集合(自力で来い)という言い渡しがあり、どうしようかと思っていた私は、彼女の「車、乗ってく?」という言葉に甘えた。都内から神奈川までの2時間が一瞬で終わってしまうくらいに、私たちは車中色々な話をした。彼女は終始「自分の話するの得意じゃないからなあ」と言っていたが、それでもポツリポツリと両親のこと、中高時代のこと、過去の恋愛遍歴、卒業後の進路などを話してくれた。どの話にも希望があった。彼女が尊くて、私はそんな彼女の全てを知った気になって満足していた。 それからしばらく経って、フラッと入った本屋で開いた雑誌に彼女の名前を見つけた。卒業してからある界隈でちょっとした有名人となっていた彼女は、そこそこ名のある雑誌でエッセイ連載をもっていた。何気なく読み進めてから、後悔した。そこには爽やかという言葉が全く似合わない言葉の渦があったのだ。私には頑張っている人って良いよねと言っていたが、そのエッセイによると「頑張っている人を見ると焦るので、自分以外の全人類は一生冬眠してて下さい」とあり、私には恋愛経験はほぼない

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(2020/08/04)