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スペインの陽光。光を反射する川面。洗濯をする母親たちの歌声と、それを見つめる少年。まるで神話のような光景が、一瞬で私たちの心を奪う――。圧倒的な色彩感と音楽性で知られる名匠ペドロ・アルモドバルの最新作は、誰もが持っている「忘れられない愛の記憶」をよすがに未来を見つめる、自伝的作品です。 主人公は、世界的映画監督サルバドール（アントニオ・バンデラス）。病に疲れ果て、引退同然の生活をしていた彼は、少年時代を回想しはじめます。バレンシアの夏の、年上の少年へのうずくような恋慕。マドリードでの恋と破局。今も消えることなく残る幸福の記憶と、痛みをなぞっていくサルバドール。そんなと、思わぬ再会が閉ざされていた彼の心を開くのです。デビュー以来、監督とともに歩んできたバンデラスの演技は、静謐で繊細。「今回ほど一体感を覚えたことはない」と語る言葉に深く納得させられます。 人は誰しも、立ち止まることがある。けれど立ち止まることで、気づくことのできる愛もあるはずです。肝心なのは、痛みにしっかり向き合って、自分を許すこと。再び人生を歩き出すサルバドールをぎゅっと抱きしめ、自分自身の大切な人に手紙を書きたくなるような、万感の思いに満たされる傑作です。

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(2020/07/21)