少女の個人的体験を通して描かれる韓国社会──映画『はちどり』(GQ JAPAN)
【リンク先抜粋】
ウニは小さな餅屋を営む両親、兄、姉と巨大な団地に暮らしています。男尊女卑の文化が根強く残る社会で、親は兄ばかりを大切にするし、兄には暴力を振るわれるし、権威主義で威圧的な教師が我が物顔でふるまう学校にもなじめません。そんな彼女は周囲に「不良」のレッテルを貼られてしまいます。とはいえその日常は、ワルどころかずいぶんかわいらしい。学校の外の友達とトランポリンで跳ねたり、彼氏とデートしたり、地下のディスコに遊びに行ったり、後輩の女子に「姉御になってください」と慕われたり。息が詰まる日々にもきらめく瞬間があって、それでもやっぱり窮屈には違いないティーンエイジャーの生活が巧みに描かれています。
ウニを取り巻くさまざまな世代の女性たちの姿も印象的です。家にも学校にも居場所のないウニに烏龍茶を丁寧に淹れ、話に耳を傾けてくれる漢文塾のヨンジ先生(キム・セビョク)の存在はもちろんのこと、ウニが入院した際に同室になったおばちゃんたちのような「主な登場人物」にならない人々もいい。「あら~かわいいこと~」と口々に言ってきたり食べものを振る舞ったりするおばちゃんたちに自分を重ねずにはおられず、ウニのぎこちない笑顔に頬が緩みました。年齢差別には反対だけれど、歳をとるほどに若い人たちがキラキラ輝いて見えてくるというのも自分の実感。たまたま同じ時間と場所ですれ違うだけの人と人のあいだに、親愛の情があたりまえに満ちる世界であってほしいと思うのです。自衛のために他人の善意を「ウザいな」と警戒することが常になってしまった現実は悲しい。
この映画では抑圧されてきた女性たちの苦しみに加えて、男性たちもまた家父長制の被害者であること、ギスギスした家庭にもお互いへの思いやりが無いわけではないことも描かれます。ある特定の土地・時代の物語ならではの面白さと青春の普遍性を兼ね備えた、出色のデビュー作ではないでしょうか。キム・ボラ監督は1981年生まれで、ソウルの東国大学映画映像学科を卒業後、ニューヨークのコロンビア大学院で学んだのだそう。次回作が楽しみな女性の監督がまた増えました。
『はちどり』
6月20日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
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提供:アニモプロデュース、朝日新聞社
配給:アニモプロデュース