河毛俊作──田村隆一の詩をどうぞ【GQ JAPAN連載特集:希望へ、伝言】(GQ JAPAN)
【リンク先抜粋】
何かの意味があるかどうかは分かりませんが、酒豪であり、ダンディで5回の結婚をした詩人の田村隆一の「だれもいないと」という詩を今の世界に捧げます。
正午をすぎる
午前中はアルコールを飲まないアメリカの
私立探偵の真似をして
タンブラーに金色の液体をゆっくりつぎ
氷がとけるのをながめていると誰もいないレストランで
動く標的にピストルをむけて
悪意のみちた神さまや可愛い悪魔とささやいたりして
人間なんかには言葉が通じない
それからタンブラーを持ったまま
浜辺に出る
陽はまだ頭上
人の影がいちばん短くなる瞬間
猫はピュアモルトの
黄金の麦のボトルの中で眠ったまま
空には鰯の雲 夏は微風にはこばれて
手のとどくところまで近づいてくる
その夏が喰べたい
積乱雲も
ぼくはワニ
何か……素敵じゃありませんか?
(2020.4.20)
PROFILE
河毛俊作
東京都生まれ。演出家/映画監督。1980年代からテレビドラマ『抱きしめたい!』などの演出を手掛ける。2005年、映画『星になった少年』で監督デビュー。演出を手掛けた市川海老蔵主演のドラマ『桶狭間 OKEHAZAMA~織田信長~』(仮)の放送が控えている。