【書評】「世界最強」のインテリジェンス:ロネン・バーグマン著『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史』(上下巻)(nippon.com)

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〈イブラヒム・オスマンはウィーンのホテルのバーで見知らぬかわいらしい女性の隣に座った。〉  2007年1月のことである。  オスマンはシリア原子力委員会の委員長であり、女性は偶然を装ってその場に居合わせたモサドの工作員だった。  ふたりの会話がはずんでいる間、別の工作員がオスマンの部屋に侵入し、鍵のかかった重いスーツケースを開けようとしていた。  手間取っているうち、監視役から連絡が入る。もうすぐ本人が部屋に戻りそうだ。  残り時間は、あと1分しかない。部屋にいた工作員は、ケースの中に入っていた写真をカメラにおさめた。内容を確認している暇はない。  あと30秒というところで中身を戻し、鍵をかけた。  オスマンは、まさにエレベーターを降りようとしている。  同じフロアに待機していた工作員が、酔ったふりをしてオスマンにからみ、時間を稼ごうとする。  間一髪、部屋を脱出した工作員は、素早く現場から立ち去った。  このくだりは、下巻の第34章、冒頭部分の要約である。  本書には、スパイ小説を凌駕する物語性がある。先を続けてみよう。  それから2週間後、驚愕の事実が明らかになる。 〈モサドは原子炉の写真を目にした。〉  シリアは極秘のうちに核開発計画を進め、核爆弾の製造能力を飛躍的に向上させている。モサドはその事実をまったく察知していなかった。  シリアのアサド大統領は、情報の漏洩に最大の注意をはらっていた。なぜなら、 〈固定電話、携帯電話、ファックス、電子メールなど、電磁的手段で送信されるシリアのメッセージについては、すべてイスラエルの情報機関に傍受されていると確信していた〉からだ。  そこで、アサド大統領は国防軍とは独立した「影の軍隊」を設立し、腹心の部下たちだけに核開発を担当させた。機密を徹底するため、 〈重要な連絡は書面を作成し、それを封筒に入れてロウで封印し、バイク便のネットワークを通じて手渡ししていた。〉  このアナログな手法によって、イスラエルを欺いてきた。しかし、先に紹介したとおり、原子力委員長の油断からことが露見してしまったのである。  むろん、シリア側は情報が盗まれていたことに気がついていない。

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(2020/06/29)