プライド月間に紹介したい名作映画【後篇】新しい時代の到来(GQ JAPAN)

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前篇に続き、後篇では、もうふたつのテーマに沿って映画を紹介したい。 ひとつめは、同性愛が犯罪や危険分子扱いされていたりした時代に、そのような現実にもかかわらず、才能ある作家が、同性愛者が同性愛者のままで幸福になる物語を執筆していた小説が、かなりの時間を経て映画化された2例だ。 『モーリス』は、20世紀初頭の英国を舞台に、互いに惹かれ合う男性たちを描いた物語だ。主人公のモーリスは、ケンブリッジの同級生クライヴと一時はプラトニックな相愛関係になるが、ふられてしまう。だが、クライヴの友達として彼の屋敷に滞在している間に、ワイルドでキュートな庭番アレクに夜這いされ、恋仲となり、自らクライヴと決別する。 E.M.フォースターによる原作小説の執筆は1913-14年。当時、フォースターが男性と交際した経験がなかったことは、後年の伝記によってあきらかになっている。つまりこれは、完全なる妄想小説なのだ。その出版はフォースターの没後の1971年。映画化は、1987年。監督のジェームズ・アイヴォリーと、プロデューサーの故イスマイール・マーチャントは、後年、公私共にパートナーであることを公表したゲイ・カップルである。 1987年当時であっても、ゲイがありのまま幸福になる映画は非常に珍しく、世界中のゲイ観客に勇気を与えた。(日本においては、BLの先祖である雑誌『JUNE』周辺で、主に異性愛女性の観客たちが「自分たちの物語」として受容し大ヒットとなったが、これについては拙著『BL進化論』2015年、をご参照いただきたい) 『キャロル』にも、同様のことがいえる。パトリシア・ハイスミスが別名義で原作小説を発表した1952年は、アメリカ社会にマッカーシズムが吹き荒れ、同性愛者は危険分子だと苛烈に弾圧されていた時代であった。創作物のなかでも、入水自殺をとげたり異性愛者に転向していったりする表現ばかりだった。そんな時代に、主人公の女性キャロルが、夫との離婚に際して娘の親権を失うという痛みをともないつつも、年下の女性テレーズと一緒に生きていく──レズビアンがレズビアンとして生きていく──ことを示唆するエンディングは非常に珍しかった。 2015年、キャロルとテレーズ役にケイト・ブランシェットとルーニー・マーラを配し、トッド・ヘインズ監督が映画化。原作との時間差は63年である。冒頭、テレーズの知人

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(2020/06/29)