男女の性戦略の有力な理論「進化心理学」に挑む「審美主義」。生き物の美しさは、性淘汰による「美の進化」の賜物なのか?【橘玲の日々刻々】(ダイヤモンド・ザイ)

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 新刊『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)で、男と女の生物学的なちがいが私たちの人生や社会に大きな影響を与えていることを、さまざまな興味深い研究にもとづいて紹介した。  ヒトは進化の過程で直立歩行し、大きな脳をもつようになり、言葉や道具を獲得したが、同様に怒りや悲しみ、よろこびなどの感情(こころ)も進化によってつくられてきた。このように考えるのが進化心理学で、男女の性差は、より多くの子孫を残すため(「利己的な遺伝子」がより効率的に自らの複製を広めるため)の性戦略のちがいから説明される。  男が精子をつくるコストはきわめて低いから、なんの制約もなければ、一生のあいだに何百人、何千人(あるいはもっと)の女と性交し、子どもをもうけることができる。遺伝人類学は、チンギス・ハンのものと思われる遺伝子(Y染色体)をもつ男性が全世界の人口(男)の0.5%(約6000万人)おり、モンゴル人民共和国と中華人民共和国の内モンゴルでは、このY染色体が25%(男の4人に1人)もの高い頻度で見つかったことを報告している(太田博樹『遺伝人類学入門』ちくま新書)。  それに対して女は妊娠から出産まで9カ月もかかり、子どもが生まれてからも数年の授乳期間が必要になるため、生涯に産める子どもの数には強い制約がある。つまり、卵子のコストはきわめて高い。  男(精子)と女(卵子)の生物学的な極端な非対称性から、それぞれの利益を最大化するよう、異なる性戦略が発達した。男の最適戦略はできるだけ多くの女と性交することで、これは「乱交」だ。一方、女の最適戦略はできるだけ多くの資源を男から獲得し、自分と子どもの安全を保障することで、こちらは「純愛」となる。この性愛戦略の対立が、女と男が「わかりあえない」理由だ――と一概に決めつけることもできないのだが、詳しくは拙著をお読みいただきたい。  進化心理学はきわめて高い説得力をもち、脳科学や分子遺伝学の最新の知見によっても補強されている。これを超える理論はもう出てこないと思っていたのだが、鳥類学者のリチャード・O・プラムは『美の進化 性選択は人間と動物をどう変えたか』(白揚社)でその教義に挑戦している。  これはきわめて刺激的な議論なので、今回は拙著と重なる部分を中心に、プラムの唱える「審美主義」を紹介してみたい。 ●生き物の美しさの多くは性淘汰に

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(2020/06/26)