千葉雅也──禁欲に抗して「不潔」を恐れない【GQ JAPAN連載特集:希望へ、伝言】(GQ JAPAN)
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緊急事態宣言を受けて僕が勤める大学でも1カ月休講になり、事務も在宅で行うことになりました。ずっと家にいると気が塞ぎます。このところはっきりした夢を見る日が多く、起きたときに疲れていることもある。確実にストレスを感じています。いつも昼を食べる店は開いているけれど、夜飲みに行くのは控えています。この機会に、通販で普段飲まない銘柄のお酒を買ったりとか気晴らしをしてはいるものの、やはりいつも通り飲みに行きたい。いま、1冊の本に取り組むとか、長期的にテンションを維持しなければならない仕事は難しい。無理をしないことだと思っています。単発の短い原稿を書くことで生活のペースを作っています。
──どうしても家庭内で過ごす時間が増えたのではないかと思います。この期間に読んだ本、観た映画、聴いた音楽などがあれば教えて下さい。またそのなかで感銘を受けたものがあれば、ぜひご紹介いただきたく存じます。
状況がここまで深刻になる前、2月には、自分が20歳の頃に聞いていたJ-POPを懐かしんで聞いていたのですが、それをこの状況で聞くと、喪失感がいっそう際立ってつらくなります。音楽というのは先へ先へ進んでいくもので、「本質的に明るい」ジャンルだと思うのですが、しばらく音楽を聞く気にはなれなかった。先行きが不透明ななか、ただ先へ先へ進む音楽を流すと、体が置いていかれるような気がしてしまって。でも、気持ちを整えるのにバッハを聞くときはあった。敬愛する志村けんが亡くなった日、寝る前にゴルトベルク変奏曲のアリアを弾きました。それから日が経って、最近は晩酌をしながらブラッド・メルドーのトリオをよく聞きます。
──先の見えない日々ですが、それでも前向きに生きるためのメッセージをいただきたく存じます。GQ読者へ、自分へ、家族へ、日本へ、世界へ......メッセージの対象 はだれでも構いません。
僕は「ポストコロナ」で世界が変わるとはあまり思いたくありません。この事態は災厄ですが、むしろこれがトリガーとなる社会変革が起きるとポジティブに語る人がいます。僕はそういう予言者めいた記事をチラッと見てすぐに閉じます。いくらか効率化は進むかもしれません。無駄な対面会議はやめて遠隔にしたらいいと思うし、印鑑が必要な書類も減らしたらいい。しかし、管理社会がいっそう進展する気配が濃厚にあるし、かつては許された「不潔」な事柄