安部龍太郎氏 隆慶一郎作品を敬愛し晩酌をやめて墓を購入(日刊ゲンダイDIGITAL)
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【私の人生を変えた一冊】安部龍太郎さん
「吉原御免状」(隆慶一郎 著)
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私の人生を変えた一冊といえば、隆慶一郎さんの本以外、ありませんね。ただし、この一冊とは言えない。隆さんの本すべてが私の人生を変えたんです。
隆さんの作品と出合ったのは、私がデビューする前の30歳ごろです。
今でこそ私は歴史小説を書いていますけど、実はデビュー前は現代小説家志望だったんです。ところが数々の新人賞に応募しても、さっぱりダメ。すっかり行き詰まって、どうにか最終候補まで残った歴史・時代小説に活路を見いだしていったんです。腹を据えて歴史小説でデビューを目指すものの、やはり心の隅っこに現代文学への未練が……。
そんなときに、「週刊新潮」で始まった隆さんのデビュー作「吉原御免状」に出合ったんです。
衝撃でした。新しい歴史観に基づいて描かれたエンターテインメント色の強い作品で、出てくる人物たちが非常に個性的なんです。
歴史小説でこれほどのことができるんだ、と目が覚めるような思いを抱きましたね。さらにうれしかったのは、隆さんのものの捉え方や、作品の背後に流れる精神が戦後無頼派の作家たちとよく似ていたこと。私が学生時代に小説を書き始めたのは戦後無頼派たちの作品に影響を受けたことがきっかけでしたから、勇気が湧いたんです。
歴史小説でこんなことができるのなら一生を懸ける値打ちがある。自分がこだわっていた「現代小説でなければ文学ではない」という考え方は、間違っていたんだと気が付き、よし、私は歴史小説でいくぞ、と腹が決まりました。
それからしばらくして、「週刊新潮」で「日本史 血の年表」(単行本は「血の日本史」)を連載するチャンスがめぐってきました。何がうれしかったって、私を担当してくれる編集者が隆さんも担当していたこと。ぜひ会わせていただけないか、と頼み込んで「いいよ。セッティングするよ」と言われたので楽しみにしていたんですが、隆さんは多忙を極め、そうこうするうちに入院された。そして、お見舞いに伺いたいと言っている間に訃報が届きました。享年66でした。